刑事事件コラム(刑事弁護)

執行猶予期間中に罪を犯したら

刑事事件コラム(刑事弁護)

■執行猶予期間中に罪を犯し、起訴され裁判を受ける場合には、原則として執行猶予は認められず実刑になります。

この場合は、最初の罪と新たに犯した罪のそれぞれの刑期を足した刑期の実刑になります。

しかし、例外的に、もう一度だけ執行猶予となる場合があります。これを再度の執行猶予といいます。

刑法第25条2項には「執行を猶予された者が、1年以下の懲役または禁錮の言渡しを受け、情状特に酌量すべきものがあるとき」には、もう一度執行猶予とすることができると定められています。

 

■再度の執行猶予となるには、次の二つの条件が必要です。

① 言渡された刑が1年以下であること

② 情状特に酌量すべきものがあること

この2つの条件を満たすことは、意外に厳しいものです。

たとえば、覚せい剤事犯では再犯者に言渡される刑が1年以下となることはまずありません。1年以下の刑となるような事件は、交通違反か常習性が認められない万引きくらいではないかと思います。

しかも、検察庁では、再度の執行猶予判決が出ると、必ず控訴審査を行います。控訴審査とは、一審の判決でよしとしてよいのかを検討する会議のことです。

つまり、本当に再度の執行猶予としてよいのかを検討するわけです。

再度の執行猶予でよしとするかを検討する場合の控訴審査では、かなり高い確率で、「控訴する」という判断となると思います。

これは、再度の執行猶予は検察としては不服であるから、高等裁判所に控訴して、「再度の執行猶予を認めない」、という判決を求めて戦う、ということです。

ですから、最初の裁判 (地方裁判所) で、再度の執行猶予判決をもらったとしても、すぐに安心することはできません。

検察が控訴する確率が高いですし、控訴審である高等裁判所で「再度の執行猶予を認めない」とする判決が出る可能性もあるからです。

私の経験では、26年の検事時代に扱った裁判で、再度の執行猶予判決をもらったことは一度もありませんでした。

再度の執行猶予判決に対して、控訴するかどうかを決める会議(控訴審査)に出席したことはあります。

このように、再度の執行猶予は大変珍しく、刑法上の制度としてはありますが、現実にはあまり適用されることのない規定です。

執行猶予期間中に罪を犯して起訴された場合には、刑務所に入ることを覚悟した方がいいと思います。

 

■執行猶予の期間が終了した後で、新たに罪を犯した場合はどうなるのか?

法的には何の影響もありません。

しかし、前に罪を犯して処罰されたことがあるということから、罪を犯しやすい人間であると思われ、起訴猶予となる可能性は低くなります。

中でも薬物犯罪の場合には、厳しく処罰されることになるでしょう。