刑事事件コラム(刑事弁護)
前科をつけたくない・不起訴にしてほしい
目次
・どの様な場合なら前科がつかないのか?
・どんな理由で検察官は不起訴処分と判断するのか?
・不起訴処分を目指す弁護活動について
・検事の経験を活かして
【どの様な場合なら前科がつかないのか?】
次の二つの場合、前科がつきません。
■不起訴処分となった場合
■裁判で無罪判決となった場合
まず『不起訴処分』について説明します。『不起訴処分』とは、検察官が検討した結果、「正式な裁判をしないとする」という処分です。
では、検察官はどの様にして処分を決めるのかというと、まず警察から送られた記録を読みます。その結果、処分を決めるための情報が足りないと思った点について、警察に補充捜査を行ってもらいます。そして、被疑者への取調をします。被害者の方から事情を聴くこともあります。このようにして検察官は処分を決めます。
警察に逮捕された場合でも、逮捕されなかった場合でも、『不起訴処分』で事件が終了すれば前科はつきません。
前科はつきませんが、警察や検察庁では、こうした場合を「前歴」として記録します。これは法的な意味のあるものではありませんし、決して公表されません。
次に『無罪判決』について説明します。
正式裁判の場で『無罪判決』を勝ち取れば前科は付きません。
しかし、現在の日本では、いったん起訴され、正式裁判となると、99パーセントを超える確率で有罪判決となります。無罪判決を得ることは大変難しいことです。
ですから『不起訴処分』を目指す弁護活動が大切となります。まず弁護士は、検察官による取調で、どのようにしたら良いのかの対処法をアドバイスします。
取調べで検察官が被疑者に尋ねる内容はケースによって異なります。私は、長年の検事経験から、検察官がどのような問題意識で取調べに臨むのかも熟知していますので、的確なアドバイスを行うことができます。
※前科とは、過去に検察官によって起訴され、裁判所で、死刑、懲役刑、禁固刑、罰金、拘留、科料、労役場留置(執行猶予を含む)の判決を受けて刑罰に服したことがある経歴のことです。つまり、前科とは、裁判所が有罪の判決を下した、という記録といえます。
【どんな理由で検察官は不起訴処分と判断するのか?】
不起訴処分になる場合、以下の4つのうちのいずれかの理由で不起訴処分になります。
『起訴猶予』『嫌疑不十分』『嫌疑なし』『時効完成』
一番多い理由は『起訴猶予』次に多いのが『嫌疑不十分』です。この二つの理由で不起訴処分全体の9割を超えるでしょう。
■『起訴猶予』
起訴するに足る証拠はあるけれど、被害者が許している、被疑者本人が反省している、被疑者を監督することを誓っている人がいるなどの理由から、あえて起訴しない方がその人の更生に役立つと、検察官が判断した場合に不起訴とするというものです。
■『嫌疑不十分』
起訴するには証拠が足りないという場合です。警察が捜査を尽くし、検察官が送検された事件の記録を検討した上で、加害者の取調や被害者や参考人の事情聴取、警察による補充捜査を行い、それらをすべて検討した結果、起訴して有罪を得るだけの証拠がないと判断した場合の処分です。
つまり、『嫌疑不十分』は、もっぱら捜査側の問題です。
■『嫌疑なし』
犯人として送検されたがそもそも犯人ではないことが判明した場合です。
■『告訴の欠如』
親告罪(名誉棄損など)で告訴が取り消された場合です。
■『時効完成』
時効が成立した場合のことです。
【不起訴処分を目指す弁護活動について】
前科をつけないために、不起訴処分を目指す弁護活動について説明します。ただし犯罪の中で、被害の程度が重大で、被疑者に前科・前歴がある場合は、起訴されることがほとんどです。
ですから、ここでは被害・罪が大きくなく、前科・前歴がない場合についての、起訴猶予という理由による不起訴処分となるための弁護活動について説明します。
下記のA, B, C, を立証します。
➡A 被害の弁償がされている
➡B 被害者の処罰感情が乏しい
➡C 反省の念が客観的に認められる
そのために、被害者のある犯罪(痴漢、傷害、窃盗など)であれば被害者との示談交渉を行い、できれば「許しても良い」などと示談書に記載してもらうべく努力します。
ただし、被害者の納得があってもそれだけでは『起訴猶予』という理由による不起訴処分を得ることはできません。それは何故なのか?万引き(窃盗)事件を例にして説明します。
万引き(窃盗)事件を起こしたが、被害の弁償を済ませ、被害者からも許してもよいとの意思が表明されたとします。しかし、取調の際に反省の態度が全く見られない上、適切な監督者もおらず、検察官から見て、このままでは今後も万引きや窃盗を繰り返すのではないか、との疑いをぬぐえない場合には、『起訴猶予』という理由による不起訴処分を得ることができず、起訴される可能性があります。
さらに、下記のD を立証します。
➡D 再犯のおそれが乏しい
再犯のおそれが乏しいことを立証するためには、家族や友人などから、「責任を持って監督する。」などといった内容の上申書などを作成してもらいます。
家族などに監督が期待できない場合には、本人から事情を聞いて、職場の上司などの適切な監督者をお願いするなどして、そのことを書面化し(監督者の誓約書を作成するなど)、そしてそれを検察官に提出する、などの弁護活動を行うことが必要となります。
ところで、覚せい剤のように被害者のいない犯罪の場合には、示談をする相手がいません。
ですから、上記のA被害の弁償、Bの被害者の処罰感情が乏しい、という内容である示談を行うことができません。
この様なケースでは、C反省の念、D再犯のおそれが乏しい、という内容の意見書を検察官に提出するなどして、『起訴猶予』という理由による不起訴処分を求め、社会復帰できるよう全力で弁護活動を行います。
ただし、覚せい剤事犯ではよほどの事情がない限り、『起訴猶予』という理由による不起訴となることは困難です。
薬物事犯の中でも、大麻所持の初犯であれば『起訴猶予』という理由による不起訴の可能性があります。
検察官は、示談の有無、意見書の内容、既にそろっている証拠など、あらゆる証拠をすべて検討して総合的に評価します。
ですから弁護士は、検察官が行う総合評価作業に際して、依頼人にとって有利となる証拠を適正に評価してもらえるよう努力します。
そのためには、検察官に面会を求めて直接事実を訴えたり、意見書を作成して検察官に読んでもらうなどの弁護活動をします。
【検事の経験を活かして】
上記のように、検察官が『起訴猶予』という理由で不起訴と判断するかどうかは、事件ごとにケースバイケースであり、一般的な基準はありません。
つまり、示談の有無が不起訴処分となる基準の一つであることは間違いありませんが、これにつきるものではない、ということです。
私は元検事の弁護士であり、検事生活26年のほとんどを捜査・裁判の現場で過ごしました。
検察官がどのような総合評価をして不起訴処分にするのか、検察官に対して具体的に何をどう訴えれば良いのかなどを熟知しており、適切な弁護活動をすることができます。
早めにご相談いただくことで、より良い対応をとることができます。